※この話は、筆者の実体験をもとに、人物や場所、出来事の一部を変えて、願望や妄想を加えて再構成したフィクションです。登場人物はすべて20歳以上です。
20歳のころ、僕は大学に通いながら、スーパーでレジのアルバイトをしていました。あの頃の僕は、とにかくモテたくて必死でした。これは、そんな僕が1個上のおねーさんに見事に振り回された、ほろ苦い思い出の話です。
タバコの似合う、1個上のみほさん
みほさん(仮名)は、僕より1つ年上でした。学生ではなく、独身でパートとして働いていました。たった1つしか違わないのに、当時の僕には、ずいぶん大人のおねーさんに見えたものです。
タバコを吸う姿がやけにカッコいい人で、学生バイトの輪ではなく、主婦のパートさんたちのグループに自然に混ざっていました。僕らとは、住んでいる世界が少し違う人。そんな印象でした。
レジの「ヘルプ」が、唯一のチャンスでした
セルフレジもQR決済もない時代です。レジが混んでくると、ヘルプに入って2人体制になることがありました。1人が商品のバーコードを読み取り、もう1人がお金を受け渡しします。
レジが空いても、2人はそのまま並んで雑談を続けます。アルバイトなんてそんなもので、みんなそれが普通でした。
僕にとっては、綺麗なおねーさんと堂々と話せる貴重なチャンスです。みほさんと組めた日は、とにかく必死でした。
「今度、飲み会来ません?」
当時はみんなお金がありませんでした。飲み会といえば、僕の4.5畳の一人暮らしの部屋に6、7人が集まるのが定番です。
「今度、うちで飲み会するんですけど、来ません?」
思い切って誘ってみました。といっても、当時の僕はなりふり構わず色々な人に声をかけていて、40代のパートさんが来てくれたこともあります。だからみほさんも、変な警戒はしていなかったと思います。
料理の途中で、突然のキス
飲み会の日は土曜日。僕とみほさんは朝からの早番で、夕方に仕事を上がると、2人で僕の部屋に向かいました。みんなが来るまでに、つまみや料理を作っておくためです。
並んで料理をしていたとき、それは起きました。
みほさんが、いきなりキスをしてきたのです。
あまりの出来事に、僕は完全にフリーズしました。
「なんか、顔見てたらしたくなっちゃって」
みほさんは、そう言って笑いました。
我に返った僕は、思わずもう一度キスをしました。2回目は、さっきよりずっと長いキスでした。みほさんは、それを受け入れてくれました。
もう止まらなくなりそうな僕に、みほさんは言いました。
「ダメだよ〜。もうみんな来ちゃう時間だから、あとでね」
嬉しいやら、悲しいやら。頭の中はぐちゃぐちゃでした。
2段ベッドの上には、先輩がいました
ほどなくしてみんなが到着し、いつものように数時間飲みました。
いつもなら、そのまま全員泊まって雑魚寝になります。ところがその日に限って、みんな用事があると言って、終バスで帰っていきました。残ったのは、ほぼ毎日うちに来ていた男の先輩のAさんと、みほさんと、僕の3人だけです。
4.5畳の部屋には、下の段がない、ロフトのような2段ベッドがありました。いちばん年上だからと先輩に上で寝てもらい、僕とみほさんは床に布団を敷きました。
すぐ隣に、みほさんがいる。でも、先輩にバレるわけにはいきません。
しばらくして、上から先輩の寝息が聞こえてきました。みほさんも、待っていてくれました。
その夜のことは、ここでは詳しく書きません。ただ、物音ひとつ立てないように気をつかいすぎた僕は、最後までうまくいきませんでした。スリルを楽しめばよかったのに、20歳の僕にそんな余裕はありませんでした。
「オレ、途中から起きてたんだよね」
翌朝、みほさんは始発で帰っていきました。
昼前に起きてきた先輩は、開口一番こう言いました。
「昨日さ〜、オレ途中で起きて、寝たフリしてたんだよね〜。いくらなんでも長すぎだろ」
僕は平謝りするしかありませんでした。ついでに、結局うまくいかなかったことまで、正直に白状しました。
告白の返事は、想像の斜め上でした
そのあと僕は、「順番が逆になっちゃったけど、付き合ってほしい」と、みほさんに告白しました。
返ってきたのは、こんな言葉でした。
「私、誰とでもすぐしちゃうから、気にしないで」
聞けば、毎週末、都会の繁華街で声をかけられるのを待ち、食事をごちそうになって、その日限りで別れる。そんな毎週を繰り返しているというのです。
僕の想像の、斜め上すぎる大人の女性。そして、これが都会なのかと思い知らされました。
それからのみほさんは、バイトで顔を合わせても、まるで何もなかったかのように接してきました。あの夜は夢だったのかな、と思うくらいに。
今振り返って思うこと
あの頃の僕は、モテるために必死に努力していましたし、なりふり構わず人を誘っていました。
結局、みほさんとは何も始まりませんでした。それでも、料理の途中の不意打ちのキスと、「あとでね」の一言は、40代後半になった今でも覚えています。必死だった20歳の自分を思い出すと、少し恥ずかしくて、少し懐かしい気持ちになります。
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